書き方のコツがよくわかる 人文・教育系小論文 頻出テーマ20

これは受験生の小論文対策本だが、日頃上司や同僚の理不尽な論理展開に振り回されている社会人、恋人や身近な人との「難解」なやり取りに悩んでいる人や、日本の不思議に戸惑う外国の方々にもお勧めしたい。この本では、20個の頻出テーマの一つ一つに「合格点がもらえる答案例」と、「合格まであと一歩の答案例」のそれぞれが同じボリュームで示されている。実は、この「あと一歩」の非論理的な例文が「こんな風に話す人いるよ」という「あるある」で笑って読めて楽しい。社会は非論理な日常で満たされている。上司や同僚の必ずしも論理的ではない言動、親や友人、知人との会話における理不尽なやり取りなど、日々の生活の実例のような文が「あと一歩の答案例」には示されている。小論文対策本では通常、論理的な文章の例文を中心に添削・指導が展開されることが多い。一方この本では論理的な例文を示すために非論理的な例文と対照させている。その効果もさることながら、各テーマの一つ一つにもれなく付いている非論理的な例文を読めることから得るものは多い。例えば、「国際平和についてあなたの考えを述べなさい」というテーマに対して、あと一歩の例文は「平和は心の中にあると思う」という情緒的な出だしで始まる。なるほど、非論理的な展開において、まずテーマは無視される。それは、「こちらは、あなたのテーマでなんか話しませんよ」という、相手からの軽いジャブだ。この後には、テーマが定義されないまま小学校と中学校での経験談が提示され、内容は徐々にテーマから離れていく。日常においても、このように当たり障りのない経験談は話の論点をそらすために重宝される。以降も一般論と仮定に終始し、途中国際平和に言及するも、これによりテーマについて解答者の考えが明示されることは無い。人は、日々の生活においてはなるべく「一般論」と「仮定」を述べて波風を立てないようにしている。自分の考えを明示しないことによって責任の所在を曖昧にし、自分や相手が傷つかないようにしている。それがどのような形をとるのかという一例を、この本は教えてくれる。遅ればせながら、これら「あと一歩」の例文こそ、私が理解すべきことであったと気づかされた次第である。