重ね地図でタイムスリップ 変貌する東京歴史マップ

重ね地図で東京の過去と現代を比較する試みはすでに類書でもあります。それでねこのような試みは分かりやすいですね。比較することで変遷が伝わってきます。現代の東京の地図を半透明のトレーシング・ペーパーに印刷し、江戸時代の地図はカラーで印刷し、それら2つを重ね合わせると、江戸時代と現在の東京の位置関係を知ることができるというマップです。本書での重ね地図は8ページでの分量ですから、多い訳ではなく、基本的には、古代から現代までの東京の地形や地理の変遷をたどるという内容でした。解説は読みやすく、難しさは皆無です。旧石器時代にあたる2万年前の関東、続く縄文海の時代の東京周辺の海岸線の移り変わりを見ていれば、内陸部にまで海が入り込んでいたのがよく分かります。そんな古い時代の地形の面白さも感じられました。歴史地図が好きですが、残念なことに江戸時代の建物も遺構も、そのほとんどが関東大震災、東京大空襲という未曾有の惨事により、失われました。江戸時代を彷彿とするものはほとんど残っていないのです。本書のように江戸以降の土地の歴史を追いながら変遷を記すことで、栄枯盛衰の姿が浮き彫りになりました。江戸の地図との比較で見えてくるものがあります。その地域に残る江戸を探す過程は歴史好きにはたまらない瞬間です。今までも何十回となく東京を訪れていますが、これから再訪する際の手引として、通常のガイドブックとは違う指南書として、役立ちそうです。また読み物としても優れ物でした。46pの見開きに本郷の東京大学のあたりが説明してありました。東大が加賀中納言殿、水戸殿、松平大蔵大輔跡に建てられたのが解かりますし、東京ドームや小石川後楽園は水戸殿の上屋敷跡です。御三家だけあって実に広大な領域です。ちなみに、早稲田大学は井伊掃部頭と御三家の尾張殿の土地に建てられています。大学と大名屋敷の関係を調べると面白いですね。44pに掲載されている迎賓館のある広大な赤坂御用地は全て紀伊殿ですから、いかに御三家の紀州、水戸、尾張が権力を握っていたかが伺えます。かつて赤坂プリンスホテルがあった場所は紀伊殿です。今は東京ガーデンテラス紀尾井町が建っています。その向かいのホテルニューオータニは井伊掃部頭です。このように現在の建物から見ていくのもまた興味をひきます。江戸時代の水資源の話も有名ですが、江戸の上水図が49pに掲載されており、ルートや広がりを知ることができました。ためになるムックだと思います。