藤原行成 (人物叢書)

藤原行成 といえば、小野道風 藤原佐理 と共に 三蹟 の一人 としてよく知られています。ただ、冒頭にも著されていますが「 世のてかき 」－ プロの書家 というのは当たりませんし、その書が単なる高官貴族の余技ではない … 。ということや、彼の生涯においてその運命に逆らわずに、藤原道長 摂関政治体制の中において、代表的な能吏として極めて多忙で心休まることのない日々の中、殊に天皇・女院および時の執政者に信頼され、職務を全うし続けた貴族官僚であったことが、理解しやすく述べられております。当時の宮廷社会のあり方と高級官僚である貴族らの人生観などまでにも、言及されていて、日常の光景とその心中に抱かれている陰影が少しばかりかイメージできます。生来の温厚さゆえに信望も厚く、結果として優れた行政手腕（ … と言えるか ? ）を残した － 中宮 彰子 立后 の名分を 一条天皇 に直言するなど 行成 でなければ、なしえなかったということが、わかるのではないでしょうか。藤原道長 にはもちろん、一条天皇 にも、その労をいとわぬ勤めぶりを認められていたこと。行成 の素姓がら当人にはそれがどう映っていたのか ?数々を考えさせられるきっかけとなるような一冊です。人というものは、与えられた条件の上でしか生きられません。そういう中で、藤原行成は少なくとも、よく生きた廷臣であったのではないでしょうか。頂点に立てない公卿はこうあるべし、というような人生だったとでもいえますでしょうか … 。この時代を様々な角度から学習・考察される方には、お勧めというか必読の一冊だと思います。著者 黒板伸夫 氏 は 同出版社（ 吉川廣文館 ）編集長 も経験されている古代史研究者であり、妻は 小説家 永井路子 氏 です。永井路子 氏 の同（ 平安中期 藤原道長 摂関政治 ）時代小説の「 この世をば 」は素晴らしい作品であり、ここにも 藤原行成 の怱々たるさまがよく書き表されております。残念なことに、平成27年 黒板伸夫 氏 は92歳にて永眠されました。ご冥福をお祈りいたします。昨年（ 平成27年 ）、お二人の 共著 「 黒板勝美（ 黒板伸夫 氏 叔父 ）の思い出と私たちの歴史探究 」が出版されております。